「来訪神」がユネスコ無形文化遺産に登録。能登のアマメハギとは

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「能登のアマメハギ」がユネスコ無形文化遺産登録へ。

私の元に吉報が入ったのは2018年10月24日の夕方でした。以前、取材でお世話になった新聞社の記者様から一本の電話があり「能登のアマメハギが無形文化遺産に登録される」というニュースを知りました。そして2019年11月末、「能登のアマメハギ」や「男鹿のナマハゲ」を含む8県10件の伝統行事「来訪神(らいほうしん)仮面・仮装の神々」が無形文化遺産に正式登録されることが決まったのです。

「ユネスコ」とはご存知、『国際連合教育科学文化機関』。無形文化遺産はユネスコの事業の一つで、消滅危機にある地域の伝統文化や祭礼行事などを国際的に継承・保護しようという制度。建築物など有形の文化財を保護する世界遺産に対し、形に残らない文化遺産を守ることを目的としています。

来訪神とは、大晦日や正月など決まった時期に人間の世界に来訪する神々を指します。登録認定された10件は以下の通りですが、日本では前述した「ナマハゲ」が広く知られていて、世界に目を向けると「サンタクロース」も来訪神にあたるようです。

・「吉浜のスネカ」(岩手県大船渡市)
・「男鹿のナマハゲ」(秋田県男鹿市)
・「遊佐の小正月行事(アマハゲ)」(山形県遊佐町)
・「米川の水かぶり」(宮城県登米市)
・「能登のアマメハギ」(石川県輪島市・能登町)
・「見島のカセドリ」(佐賀県佐賀市)
・「甑島のトシドン」(鹿児島県薩摩川内市)
・「薩摩硫黄島のメンドン」(鹿児島県三島村)
・「悪石島のボゼ」(鹿児島県十島村)
・「宮古のパーントゥ」(沖縄県宮古島市)

ところで、我らが「能登のアマメハギ」のことを知っていた、もしくは聞いたことがあった、という方はどれだけいるでしょうか。正直、石川県民でも観光や伝統文化に精通している人以外は知らない方が多いと思います。

今回登録された「能登のアマメハギ」は、石川県の輪島市門前町および能登町のアマメハギ、輪島市の面様年頭が対象となっています。実際のところ、地域によって特徴が違うのですが、共通しているのは
・毎年冬に行われる
・鬼や天狗などに扮する
・家々をまわって怠け者を戒める
ことです。

私は能登に興味をもってから、毎年のように石川県輪島市門前町皆月(みなづき)と石川県能登町秋吉のアマメハギを撮っています。特に皆月は私のルーツの場所で、フリーランスの拠点としてスタートした場所であり、思い入れは人一倍強いです。

皆月のアマメハギはお正月の怠け癖を戒める行事として、毎年1月2日の夜に行われます。天狗や猿、ガチャと呼ばれるお面をつけた若衆が「怠け者はおらんか〜」と家々をまわります。大きな声に驚き、子供たちは大泣き。大人の私でも近くに来られると怖いほど、迫力があります。

皆月という場所は「奥能登の最後の秘境」とも呼ばれる集落で、こんな場所が石川県にあったんだ、と驚く人もいます。「ノスタルジック」という言葉がピッタリで、外国の人のウケも良いです。

2015年にはフランス人の写真家シャルル・フレジェ氏が皆月を訪れました。キッカケはシャルル・フレジェ氏のアシスタントが私のブログを見て皆月やアマメハギに興味をもってくれたからです。私は被写体となって撮影に参加しました。(撮影された写真は『YOKAI NO SHIMA(ヨウカイノシマ)』という写真集に収録。2016年には銀座メゾンエルメスで写真展も開催されています)

シャルル・フレジェ氏がナショナルジオグラフィックのサイトで特集されるような写真家と知ったのは数年後ですが、小さな何もない集落の伝統文化に興味をもっていただいたことは、とても嬉しいことでした。

きっと見る人が見れば、とても興味をもってもらえるのが民俗行事。仮面・仮装姿は非日常的で興味深く、祭りを撮り続けている私にとってアマメハギは欠かせない行事なのです。

しかし、無形文化遺産に登録されたことで嬉しい反面、正直複雑な思いもありました。今回登録された来訪神は共通して、過疎・少子高齢化で伝統を継承していくことが難しくなっています。登録されたことによって、今後は多方面からのバックアップが期待できますが、アマメハギは観光目的の行事ではないため、もし人が押し寄せた場合、現場は困惑してしまう可能性があるのではないでしょうか。今後は様々な理解を得るためにも、地元の方々と自治体が一体となって情報発信が重要となると思います。

写真家として一つ変わらないのは、「アマメハギ」を撮り続けること。石川県にこんな伝統文化があるんだ、と知るキッカケになると嬉しいです。

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